【#36】怪獣坊ちゃん (前編)【Sandwiches'25】

 
 
 
 

初対面とか、知り合って間もない相手と話していると、「あなた、ご趣味は」と聞かれることがある。わたしにとって、これほど困る質問もない。趣味ってなんだろう。そんなもの、ない気がする。もちろん、日々の生活の中で愛好しているもの・ことはさまざまあるけども、わざわざ「これが趣味です」と宣言を立てるほど明確なそれが思い浮かばないのである。

自分の場合、一番多いのが「読書ですかねー」と苦笑いでお茶を濁すパターン。実際、本は好きだし、SNSに読んだ本について投稿したりもしているし。答えとしては外れていないはずだ。でも、あまりにシンプル、定番すぎるきらいがある。端的に「面白くない」感じがするというか。感じがする、というのは自分がというのでなく、相手の反応が、そう見えるのである。「ハア、なるほど」。もっとユニークな答えを聞きたかった、そんなリアクションをされてしまう気がするのだ。ただの自意識過剰だろうか。

それで、というわけでもないけれど。あるとき、思い余って「怪獣、好きですねえ」と口走ってしまったことがある。怪獣? 聞き手の顔には当然、はてなマークが浮かぶ。ゴジラとか、そういうやつ? わたしは焦って続けた。「やー、なんか好きなんですよねえ。映画見たり、ソフビ人形を集めたり、しています。ほら、ウルトラマンのあれとか」……。

「読書」の次に「怪獣」が浮かぶというのも妙な思考回路だ、そもそも「怪獣が趣味」ってどういうことだ? これも結局、相手の期待しているところとはズレた答えなのだろう。「ハア、なるほど」。反応はいつもと変わらなかった。なんで「怪獣」なんて言ってしまったのか。そのあと、しばらく落ち込む羽目になった。

しかし、とっさに浮かんだ怪獣に対する愛着はまるきり嘘ということでもない、と思う。部屋を見渡すと、棚や机のあちこちにいくつもの怪獣ソフビが立っている。ゴジラ。ガメラ。ウルトラマンシリーズのゼットン、ゴモラ、エレキング、などなど。あ、恐竜戦車もいる(ご存じかしら、戦車のキャタピラに恐竜が乗った、名前そのままの姿をした珍奇なウルトラ怪獣だ)。そのどれもがどうにも好ましく、魅力的な存在に見える。

やっぱり自分は怪獣が好きなのだ。でも、それは一体いつからだろう。

最初の出会いはおそらく、ウルトラマンだ。ちょうど幼稚園に入るか入らないかくらいの時期に「ティガ」「ダイナ」「ガイア」の平成三部作がテレビ放映されていて夢中だった記憶があるし、同時に『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』など昭和のウルトラ作品も両親がレンタルしてくれたVHSで観ていたと思う。

両親は60年代後半生まれで、「怪獣」文化が勃興をみせた時期に幼年期を過ごした世代でもある(昭和のゴジラ映画、ウルトラマンシリーズほか、多くの作品が60年代~70年代に公開・放映されている)。そして、わたしの生まれ育った90年代後半〜2000年代初頭は、一度は冬の時代を迎えていたそれらの特撮作品たちが軒並みリブートを果たしたタイミング。

『ガメラ 大怪獣空中決戦』が1995年。『ウルトラマンティガ』が1996年。2000年には『仮面ライダークウガ』も始まる。さらに海外の作品も加えてよいなら、1999年に16年ぶりの新作として制作された『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』なんかも登場している。時代は一巡し、まさに特撮ルネッサンスとでも言うべきムーブメントが到来していたのだ。

両親としては、かつて慣れ親しんだ存在であったウルトラマンやゴジラが再び脚光を浴びていることから、自然とそれを子どもにも見せるようになったのではと推測する(確認を取ったわけではないので真偽はわからないけど)。時代に導かれ、わたしの幼年期には多くの怪獣のイメージがもたらされた。

心惹かれたいちばんの理由は、やはりかキャラクターとしての造形のかっこよさだろう。幼いころは、特にゴジラに代表される「恐竜型」の、爬虫類的なルックスの怪獣が好きだった。「ドラゴン型」と言ってもいい。わたしの心をわし掴むなにかが、あの姿にあった。ゴジラ、キングギドラ、ゴロザウルス。ウルトラマンならアボラス、レッドキング、ザンボラーなどなど(気になった方だけ、調べてね)。

当時は『ジュラシック・パーク』のヒットによる恐竜ブームも沸き起こっていたはずで(幼稚園から小学校に上がるまで、わたしの将来の夢は「恐竜博士」だった)、その影響もあるかもしれない。あと、「遊戯王」カードの、「青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)」とかね。好きだったなあ。家庭科セットはしっかり「ブラックドラゴン」のデザインを選んでいた、ドラゴニック・センス・キッズなのだった。

そんなカッコいい! 怪獣が、画面いっぱいに暴れ回る。街をぼっかんぼっかん破壊する! そのさまを、うっとりと眺めていた。怪獣が登場しない時間、人間ドラマのほうは訳もわからず観ていたと思う。ストーリーはそっちのけ。とにかく怪獣、怪獣がたくさん出ていればそれだけで嬉しかった。ゴジラをはじめ、11体もの東宝怪獣が登場する映画『怪獣総進撃』が大のお気に入りだった理由もそれだ。数は正義。

親にねだって、ソフビ人形もたくさん買ってもらった。あとは怪獣図鑑などの書籍。表紙はちぎれ、ページがボロボロになるまで読み耽った。当時福岡にあった「ウルトラマンランド」というテーマパークには何度も通った。そのころのわたしは確かに怪獣っ子だった、そのはずだ。

ただ、どんなブームも長くは続かないということか。ゴジラシリーズが2004年の『ゴジラ FINAL WARS』で、ウルトラマンシリーズが2006年〜2007年放送の『ウルトラマンメビウス』で、それぞれいったんの区切りを迎え、(子どものわたしが望む形での)作品の供給は途絶えてしまった。そのころ、ちょうど中学進学を迎えるタイミングだったわたしは次第に特撮作品から遠ざかってしまったのである。(後編に続く)(2025.11.22)

 
maco marets